JAPAN MINUTE in Suwa City

3つのストーリーが伝える諏訪の技術

異なる視点を持つデザイナーとの共創がものづくりの匠にもたらした意識改革とは?

写真左から:合同会社シーラカンス食堂 小林新也、株式会社松一 松澤奈美さん、松澤正明さん

こんにちは。合同会社シーラカンス食堂の小林新也です。

2016年10月にスタートした本プロジェクトは2017年3月に一旦終了を迎えます。この半年間で開発を進めてきた「くっつくキューブ」は多少改善の余地を残しながらも、プロトタイプの完成を見ることができました。

ゼロベースからの取り組みということで難しいプロジェクトでしたが、ここまでの歩みを松澤さんと振り返るべく、総括として対談をさせていただきました。

たった半年で、想像していなかった方向へ世界が広がった

小林:まずはプロジェクト全体を振り返って率直な感想を聞かせてください。

 

株式会社松一 松澤正明さん: 小林さんと出会ったことで、小林さんの地元・兵庫県小野市の職人さんと仲良くなれましたし、姫路で「玉鋼(たまはがね)」という昔ながらの鉄で刀を作る刀匠の方ともお話ができました。たった半年という期間でしたが、仕事に繋がる出会いもあって、想像していなかった方向へ世界が広がったと感じています。

 

工業を専門にしていると、自社技術を守る意味合いもあって人との繋がりが生まれにくい部分があるのですが、諏訪から遠く離れた地域の方とお近づきになれて、しかも私たちとの出会いを先方が喜んでくれたことはとても嬉しいし、大きな変化です。

「くっつくキューブ」もそうですが、これからの展開が楽しみになるような種がたくさん生まれたプロジェクトだったと思います。

相手の“ふつう”が、自分たちの“ふつう”とは違う

小林:僕のように異分野、異業種の人間との共同作業はいかがでしたか?

 

松澤さん:私たちの“ふつう”が相手にとっては“ふつう”ではない、そのことがとても新鮮でした。価値観の違い、視点の違い、言葉の違い。その部分は私だけでなく小林さんもおそらく新鮮に感じていたのではないかと思います。

たとえば、今回製作したキューブもそうです。私たちの工業感覚からいくとキューブを作るのは当たり前すぎて「いまさらキューブ?なぜ?」という感じでした。

でも、小林さんの提案のポイントはキューブを作ること自体にあるんじゃなくて、綺麗な鏡面を持ったキューブ同士がくっついてしまうことの驚きと、その驚きで松一の技術をアピールすることにあったわけです。

 

私たちにとっては“ふつう”のことも、見せ方を工夫すれば他の人たちにとって斬新なものになる。そういったことを勉強させてもらいました。

デザイナーの“思考プロセス”を共有できたことは大きな収穫

松澤さん: もう20年以上も前の話ですけど、実は以前に一度、小林さんと同じ「デザイナー」という肩書の方とお仕事をしたことがあるんです。

その時は一緒にもの作り上げるというより、その方が良いと思ったものがいきなりアウトプットとして出てきて、私たちはただそれを受け入れるしかありませんでした。

 

でも、小林さんとのお仕事では「松一に足りないものは何か?」と根本の部分から一緒に考えはじめて、そこに小林さんの感性や情報、デザインをプラスしながら、ああしようこうしようという議論を経て、その結果アウトプットが出てくるという感じを受けたんです。

アウトプットに至る思考プロセスも含めて一緒に作り上げてくれるので、すごく楽しかったし、納得もできるし、勉強にもなりました。ひと粒で何度もおいしいみたいな(笑)、そんな印象を持ちました。

具体的な“モノ”や“製品”のないプロジェクトならではの難しさ

小林:ものごとの表面的な部分だけじゃなくて、根本の部分から「一体何が足りないんだろう?」と考えていくのは、今回に限らず僕が仕事をする上でいつも大事にしていることです。

今回のプロジェクトがいつもと違ったのは、対象となる具体的なモノがなかったことですね。クライアントワークでは何か製品があり、そこに新しい何かを加えて販売し、そのフィードバックをもとにさらなる改善を続けていくんです。

でも、今回はそもそも対象となるモノがなかったし、完成した「くっつくキューブ」もそれ自体を販売するわけではないので、一度完成したらそこで関係が終わってしまう可能性もあるなと心配していたんです。

 

でも幸いなことに、「くっつくキューブ」を目指して活動していると僕の人脈と松澤さんの間で思わぬ出会いが生まれたし、今回のプロジェクトとは全く別に、Webサイトやムービー、パンフレットを作って松一をアピールしようという取り組みも進んでいます。

だから、「こういうパターンはこうする」という“決め打ち”をあんまりし過ぎてはダメなんだなというのは今回感じましたね。いろいろな広がりや思わぬ展開を目の当たりにして、常に柔軟なスタンスでいることの大事さは今回のプロジェクトで痛感しました。

「作る」だけでなく、「見せる」ことの重要性を認識した

今回のプロジェクトで完成した「くっつくキューブ」のプロトタイプ

小林:今回のプロジェクトでは最終的に「くっつくキューブ」のプロトタイプが完成したわけですが、松澤さんの手応えはいかがですか?

肝心の“くっつき”が弱いということで、キューブの重量や表面積の改良は続けていかなければいけないね、という話はさせていただいていますけれども。

 

松澤さん:今回は時間がすごく短かったので、自分としてはまだ満足できていないですね。

人間の感覚で製品の良し悪しを判定する「官能検査」ってあるじゃないですか。あの観点からいくとこのキューブは欠点だらけなんですよ。表面は確かに光っているんだけど、光っている表面の奥にね、波があるんです。

 

でも、今までの松一にはなかった情報発信の種ができたことは評価したいですね。これまで私たちは「作る」ことはできてもその技術をわかりやすく「見せる」ことがまったくできていなかったわけです。今後はもっと改良を加えて、このキューブが松一のことを知ってもらう良いきっかけになればいいなと思います。


まっさらな状態で、新しいものを受け入れる姿勢が大事

小林:最後に、今後同じように自社のアピールに取り組もうとする事業者さんに向けて、何かメッセージやアドバイスなどがあれば教えてください。

 

松澤さん:来年度もこういったプロジェクトが続くようでしたら、そこに参加される会社さんには、「自分の思いや考えはひとまず置いて、クリエイターさんの言うことをまずは受け入れてみてはいかがですか?」とお伝えしたいと思います。

諏訪にある企業は、自分の会社に確固たる技術や信念を持っている会社がほとんどです。でも、その主体性をあまりに強く持ちすぎてしまうと今までの延長線上で何も変えられないかもしれない。一度自分たちの頭の中をまっさらにして、外部の方の言葉を積極的に受け入れて、なんでもトライしてみる気持ちを持つとうまくいくのではないかと思います。

 

小林:「くっつくキューブ」もまさにそのような姿勢から生まれた成果ですよね。

今回のプロジェクトではいろいろな経験をさせてもらい、僕自身も大変勉強になりました。取り組みは一旦ここで区切りとなりますが、個人的にはいつか自分の企画する商品を松澤さんに具現化してもらって、それをダブルネームで売っていきたいなあと考えているんですよ。

 

松澤さん:それはとても楽しみですね。ものづくりに関してはどんなものでも作れるという自負が松一にはありますので、アイデアと見せ方の部分は小林さんの力を借りて、いいものを一緒になって作っていきたいですね。

 

小林:今日はどうもありがとうございました。